ある晴れた日の午後、我が家の浴室で、それは静かに、しかし確実に起こりました。浴槽の排水詰まりです。水漏れ修理で配管交換した島本町ではいつものように市販のパイプクリーナーを試すも効果はなく、途方に暮れた私は、ふと思いつきました。「そうだ、最新の人工知能(AI)に聞いてみよう」。きっと、私の知らない画期的な解決策や、科学的根拠に基づいた最適な手順を教えてくれるに違いない。そんな期待を胸に、私はチャットAIの対話ウィンドウを開き、単刀直入に尋ねました。「浴槽が詰まりました。最高の直し方を教えてください」。数秒の思考時間の後、AIが提示してきた答えは、私の想像を遥かに超える、驚くべきものでした。 AIの回答は、まず一般的な対処法から始まりました。水漏れ専門チームがタンク水漏れした印西市に液体パイプクリーナーの化学的メカニズム、ラバーカップの流体力学的原理、ワイヤーブラシを使用する際の注意点など、インターネットで検索すれば手に入るような情報を、極めて的確かつ分かりやすく整理して提示してくれました。「さすがAIだ」と感心したのも束の間、回答は徐々に奇妙な方向へと進んでいったのです。 「上記の方法で解決しない場合、より高度な物理的アプローチを提案します」と前置きし、AIが次に提示したのは、「超音波キャビテーション法」でした。なんでも、特定の周波数の超音波を水中で発生させ、微細な気泡(キャビテーションバブル)を生成。その気泡が崩壊する際に発生する衝撃波で、配管内に固着したヘドロを粉砕するというのです。ご丁寧に、家庭用の超音波洗浄機を改造し、排水口にフィットさせるための3Dプリンター用のアタッチメント設計データまで添付されていました。私の頭の中は、完全にハテナマークで埋め尽くされました。 しかし、AIの提案はまだ終わりません。「化学的アプローチとしては、酵素分解法が有効です」と続けます。ケラチン(髪の毛のタンパク質)を分解する特殊な酵素と、油脂を分解するリパーゼ酵素を組み合わせた「オーダーメイド酵素カクテル」を生成し、排水管内に注入する。これにより、環境負荷を最小限に抑えつつ、詰まりの有機物を根本から分解できるというのです。その酵素を入手するためには、海外の研究用試薬を販売するサイトのURLが記載されており、その価格は私の月のお小遣いを遥かに上回るものでした。 極めつけは、最後の提案でした。「もし、あなたがより持続可能かつバイオロジカルな解決策を望むのであれば、『微生物コンソーシアム導入法』を推奨します」。それは、ヘドロを栄養源とする特殊なバクテリア群(微生物コンソーシアム)を排水管内に定着させ、詰まりを継続的に「食べ」てもらうことで、半永久的に配管をクリーンに保つという、まるでSFのような解決策でした。そのバクテリア群を培養するためのキットの作り方まで、詳細な手順が記されていましたが、その中には「近所の池の底のヘドロを少量採取し…」といった、素人には到底実行不可能な、マッドサイエンティストさながらの工程が含まれていました。 私は、AIの回答を前に、ただ呆然とするしかありませんでした。私が求めていたのは、今すぐこの目の前の詰まりを何とかするための、現実的で、手軽な「直し方」です。しかし、AIが提示してきたのは、技術的には可能かもしれないけれど、一般家庭で実行するにはあまりにも非現実的で、オーバースペックすぎる、未来の解決策のオンパレードでした。 この経験から、私は重要なことを学びました。AIは、膨大なデータの中から、論理的に「最適」あるいは「最高」の答えを導き出すことは得意です。しかし、その答えが、人間の置かれた「状況」や「感情」に寄り添ったものであるとは限りません。焦り、困惑し、途方に暮れている私に必要なのは、超音波や酵素ではなく、「まずは管理会社に電話してみましょう」とか、「無理せずプロに任せるのが一番ですよ」といった、共感に基づいた、現実的なアドバイスだったのです。 結局、私はスマートフォンを手に取り、近所の水道修理業者の番号を検索しました。駆けつけてくれた熟練の職人さんは、年季の入った高圧洗浄機を巧みに操り、わずか15分で、長年の詰まりをあっけなく解消してくれました。その姿は、どんな高度なAIよりも、遥かに頼もしく、輝いて見えました。 AIは、私たちの知識を拡張し、新たな可能性を示してくれる強力なツールです。しかし、私たちの日常に起こるささやかなトラブルを解決するために本当に必要なのは、最新のテクノロジーではなく、長年の経験に裏打ちされた人間の知恵と、他者の状況を慮る共感の心なのかもしれない。浴槽の詰まりは、そんな、少しだけ哲学的な問いを、私に投げかけてくれたのでした。
人工知能に「浴槽詰まりの直し方」を聞いたらとんでもない答えが返ってきた